贈与税は110万円までは非課税だから、相続税対策として生前贈与が有効」とよく聞きます。しかし、生前贈与にも注意すべきポイントがあり、「安易に生前贈与をしていると、多額の追徴税額が発生する可能性がある」と、多賀谷会計事務所の現役税理士・CFPの宮路幸人氏は警告します。Aさんの事例をもとに、「生前贈与が原因で追徴課税を課されるケース」とその予防策にをみていきましょう。

子のための「生前贈与」で“まさかの追徴課税”

定年退職を迎え、70歳に近づいてくると、だんだんと同年代の人たちと「相続税対策」についてお話する機会も増えてくるのではないでしょうか。

特に大都市圏にお住まいの方は土地の評価額が高くなるため、戸建てなどの不動産を所有している場合相続税の申告が必要となるケースが多いです。実際、相続税の申告者割合は全国平均では約12人に1人ですが、東京都では約6人に1人とほぼ倍になっています。

都内在住のAさん(69歳)も、自分の親が亡くなったときに思ったより多額の相続税を納めた経験があるため、「自分の相続のときは、子どもたちの負担を少なくしたい」と考えていました。

友人に相談したところ、「年間110万円以内の贈与であれば、贈与税の納税も申告も必要ないよ」と聞いたAさんは、“子に内緒”で通帳を作成。毎年100万円ずつ10年間、2人の子どもたちに生前贈与を行いました。

その後、Aさんは81歳で逝去。相続人となった子どもたちが相続税の申告を行ったところ、翌年税務署から「税務調査に伺いたい」と連絡がありました。

そして調査の結果、「お父様が行った生前贈与は贈与の実態がないため、生前贈与として認められません。この2,000万円も課税対象になるので、相続税の申告に含めて計算してください」と告げられました。最終的に、追徴税額は400万円。さらにペナルティとして加算税と延滞税も課されることに……。

なぜ、この生前贈与は否認されることとなってしまったのでしょうか?

“生きているあいだ”はあまり問題にならない生前贈与だが…

実は、贈与税は生きているあいだ(生前贈与を行っているあいだ)はあまり問題となりません。税務署も個人の資金の流れについて細かに把握しないためです。

しかし、生前贈与を行っていた贈与者(=親)が亡くなった際は注意が必要です。

税務署は、相続人が亡くなるまでのおおむね10年分ぐらいの預金口座の動きを把握します。そして、10年のうちに大きな資金移動がある場合は、「これは子や孫たちに対する贈与か?」「あるいは名義預金か?」などと考え税務調査が行われることとなるのです。

「証拠を残す」がカギ…生前贈与の注意点3つ

では、生前贈与をする際はどのような点に注意しなければならないのでしょうか?

1.「贈与契約書」を作成する

生前贈与が成立するためには、贈与者が「この財産をあげます」受贈者が「この財産をもらいます」という両者の合意が必要となります。

この合意の証拠を残すため、贈与者(親)と受贈者(子)が署名押印し「贈与契約書」を作成しておきましょう。できれば公証人申告役場で確定日付をとっておくと、より証拠力が高まります。

2.直接渡すのではなく「銀行振込」で行う

現金で直接受贈者(子)に渡してしまうと客観的な証拠が残らないため、生前贈与は銀行振込で行いましょう。こうすることで、通帳に印字されるなど客観的証拠が残ります。

3.通帳は受贈者本人に管理させる

生前贈与を行う場合、贈与者がその通帳や印鑑を管理していると、贈与者が亡くなった際受贈者が自分で使えず、贈与とみなされなくなる可能性があります。通帳は子や孫本人に管理させるようにしましょう。

“子に内緒”はNG!追徴課税を受けない生前贈与のポイント

今回の事例で子に追徴課税が課された原因は、Aさんが“子に内緒でこっそり”生前贈与を行っていたことにあります。

「預金を子や孫に管理させたら無駄遣いするのではないか」「なにもしなくても親から財産をもらえると思わせるのはよくない」「でも、子の将来のために役立ててほしい」などと、親心から子に知らせずにこっそり贈与を行っているケースが多いのですが、客観的な証拠がないと贈与とみなされず、今回のように子が追徴税額と加算税等を支払うこととなります。

また、Aさんのように毎年100万円の贈与を10年間行った場合、これは最初から総額1,000万円の贈与をする約束であったとする「定期贈与」とみなされる可能性があります。この場合、1,000万円に対し贈与税が課されますので注意が必要です。

さらに、「私はあえて110万円を超える贈与を行い、贈与税の申告と納税を済ましているから大丈夫!」とも思わないでください。申告を行っている場合であっても、贈与の“実態”がない場合はやはり否認される可能性があります。

◆まとめ

「毎年110万円以下の生前贈与であれば相続税の負担が少なくなる」ということは広く知られていますが、今回みてきたように“実態がない”場合は、税務調査の際贈与が否認され追徴税額を徴収されますのでご注意ください。

また、このたびの税制改正により、2024年以降の生前贈与加算は3年から7年に徐々に延びることになりました。つまり、生前贈与による相続税対策に歯止めがかけられたことになります。

したがって、生前贈与を行う際は専門家等に相談しながら進めることをおすすめします。

宮路 幸人

多賀谷会計事務所

税理士/CFP

(※写真はイメージです/PIXTA)


(出典 news.nicovideo.jp)

贈与(ぞうよ)とは、当事者(贈与者)の一方がある財産を無償で相手方(受贈者)に与える行為。 大陸法では契約の一種(贈与契約)。日本の民法も典型契約の一種とする。一方、英米法では契約(contract)は捺印証書または約因(対価)が存在しなければならないため、単なる贈与だけでは契約にはあたらない。 片務契約…
20キロバイト (3,334 語) - 2023年12月20日 (水) 16:00



(出典 www.zeiri4.com)



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