なぜ結婚をしない人が増えているのか。『人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造』(ハヤカワ新書)を上梓した精神科医・熊代亨さんは「コスパタイパといった考え方が浸透し、結婚や子育てはコスパが悪いと考える人が増えている。これは、資本主義による人間の家畜化が進んだ結果だ」という――。

■すべてが「コスパ化」している

今日、資本主義的な考え方は経済活動だけにとどまらず、投資・資本・費用対効果コスパ)といった概念は色々な場面に適用されがちです。そうしたなか、タイパタイムパフォーマンス)という言葉も登場し、三省堂の「今年の新語2022」の大賞に選ばれました。

文化資本や社会関係資本といった言葉が象徴するように、社会学者たちは学歴・教養・礼儀作法・人間関係・健康・美容・マインドまでをも資本財とみるようになり、実際、それらは投資やリスクマネジメントの対象にもなっています。してみれば、現代人の行動の広い範囲が資本主義の思想に基づいていて、この思想はよく内面化されていると言えるでしょう。

コスパタイパといった考え方は広く浸透し、たとえば動画サイトを二倍速で視聴するような習慣も生み出しました。人生についても、「コスパの良い人生」などといった言葉が語られ、賛否はあるにせよネットメディアを賑わせています。

■人生を資本主義に支配されていいのか

それにしても、コスパの良い人生とはいったい何でしょう? 人生をコスパで推し量るとは、人の一生という、もともとは資本主義に基づいていなかったものを資本主義の考え方に落とし込んで費用対効果に換算すること、人生の価値基準を資本主義のそれに換算し、その思想に基づいて生きることではないでしょうか。

コスパタイパを意識する人々とて、隅から隅まで資本主義の思想どおりに生きるような原理主義者ではないでしょう。とはいえ、本来資本主義に基づいていなかった領域までコスパタイパで考えすぎれば、資本主義にそぐわないもの、遠回りかもしれないもの、効率的でないもの、リスクを伴うものが選びにくくなります。

■コスパで考えると「結婚はマイナス」

明治安田生活福祉研究所の調査によれば、結婚について金銭的な損得やコスパの観点で考えたことがある人の割合は30代の未婚男女において特に高く、男性で45.7%、女性で48.3%となっています。

また男性未婚者は結婚の価値をお金に換算するとマイナスであると答えている割合が高く、結婚に対してコスパ意識を持っている人はそうでない人に比べ「結婚に希望が持てない」と回答している割合も高くなっていました。

同調査からは、コスパに基づいた結婚観を持っている人ほど結婚はコスパが悪い、よって結婚にリソースを割り当てるべきではないと判断している様子がうかがえます。

私は以上のような状況を、資本主義による人間の家畜化、あるいは“文化的な自己家畜化”の帰結であると考えています。

■イヌもネコも人間も「自己家畜化」した

自己家畜化とは、生物が進化の過程でより群れやすく・より協力しやすく・より人懐こくなるような性質に変わっていくことを指します。たとえば人間の居住地の近くで暮らしていたオオカミやヤマネコのうち、人間を怖れず一緒に暮らし、そうして生き残った子孫がイヌやネコへと進化したのは自己家畜化の例です。人為的に家畜にするのでなくみずから家畜的に変わったので「自己家畜化」、というわけです。

そして進化生物学は、私たち人間自身に起こった自己家畜化も論じています。考古学、生物学、心理学などから多角的に検討すると、この自己家畜化が私たちの先祖にも起こってきたというのです。自己家畜化にともなう生物学的な変化によってセロトニンが増大し不安や攻撃性が抑えられ、より人懐こく、協力しあえる性質が人間にもたらされました。

進化生物学の研究者たちも述べるように、自己家畜化は今日の文化や社会環境を築くうえで非常に重要だったはずで、この変化がなければ都市に集まって暮らす今日のライフスタイルは成立不可能だったでしょう。

■人間の動物性がますます漂白されている

ところが最近、その生物学的な自己家畜化の進展よりずっと早い速度で文化や社会環境が変わっています。生物学的な自己家畜化の歩みと文化の歩みの速度にギャップが生まれ、リードする文化の側が「人間よ、文化の進歩にあわせてもっと自己家畜化しなさい」「資本主義などの思想にみあった家畜人になりなさい」と人間を引っ張っています。

その結果、文化や社会環境が人間の動物性をますます漂白していく現況を精神科医としての私は憂慮しています。

自己家畜化が進んだとはいえ、人間は、ホモ・エコノミクスである以前に動物としてのホモ・サピエンスでもあります。遺伝子を継承し、子々孫々の繁栄を求める動物の観点からみれば、最もコスパが良いとは、最も効率的に子孫や血縁者を残せることを指すはずです。

■「遺伝子を運ぶ乗り物」から資本の乗り物へ

ところが今日、そのような観点からコスパを推し量る人はまずいません。コスパを追求する人が結婚を敬遠し、結婚したとしても子どもの人数を制限する判断基準は、動物としてのホモ・サピエンスのものではありません。

高収入志向も高学歴志向も、ぜいたくな生活や顕示的消費を望むのも、資本主義の思想を内面化したホモ・エコノミクスならではのもので、そこから逸脱した「貧乏の子沢山」のような生き方は今日では選ぶに値しない生き方、というより非常識な生き方とみなされるでしょう。

進化生物学者のリチャード・ドーキンスは『利己的な遺伝子』(紀伊國屋書店)のなかで、「人間も含めた生物は、遺伝子からみれば(遺伝子を運ぶ)乗り物である」と比喩しましたが、今日の人間はまるで自己増殖する資本の乗り物のようです。

社会の隅々にまで資本主義の思想が浸透し、それを内面化した私たちにとって、資本主義の思想(ミーム)は生物学的な遺伝子(ミーム)よりも強い行動原理になっていて、子孫を残すのにふさわしい暮らしは、資本主義にふさわしい暮らしに上書きされています。

■わざわざ配偶や子育てを選ぶ人は「異端者」に

こうなってしまった以上、最終的には、配偶や子育ては個人のものから社会のものになるしかないのではないでしょうか。

そもそも、世代再生産を個人のインセンティブに頼っているから少子化が進むのです。資本主義が浸透し、誰もが家族や子育てにまつわるリスクを合理的に考えるようになれば、ホモ・エコノミクスとしての私たちが子育てを躊躇し、配偶すらリスクとして回避するのは当然でしょう。なぜならそれらは投資事業としてはあまりに長期的でベネフィットが不確かだからです。

今後、私たちが「真・家畜人」として資本主義に一層忠実になっていくとしたら、配偶や子育てが納税のように義務化されない限り、それらをわざわざ選ぶのは異端者とみなされるように思います。事実、すでに私たちは衝動的に性行為し妊娠し出産する人を異端者のように眺めていませんか。

どのみち、IoT化によって一層の監視と介入が促される未来の世代再生産の場は現代人が理想視する家庭とは異なったどこかでしょうし、そのとき従来どおりの家族愛が成立しているともあまり期待できません。

家族愛の手前の段階、ロマンチックラブと配偶の結びつきにしてもそうです。男女が職場で出会い関係をもつことがハラスメントやインモラルとみなされやすくなり、マッチングアプリが台頭してきている昨今の風潮は、お見合い結婚が20世紀風の自由恋愛に根差した結婚に変わっていった、その変化のさらに次の段階が訪れつつあることを暗に示していないでしょうか。

つまり功利主義に基づいてハラスメントを回避しあい、資本主義に基づいてコスパタイパを最大化しあう、そのような要件を一層満たす出会いが望まれ始めているように見えるのです。

■生産性や効率性のために人間が性別を捨てる未来

性交同意書の導入もその一端かもしれません。性交同意書は性行為の領域に功利主義や社会契約のロジックを徹底させるツールで、一面としては男女双方の自由を尊重するものですが、別の一面としては中央集権国家に性行為の差配を委ね、管理させるものでもあります。

工場ではなく家庭で子育てすること、専門家でもない個人が子育てをすること、自分の身体で妊娠し出産すること、さらに男女が身体を用いて性行為すること、これらがすべて忌避されるようになっても私は驚きません。

生産性や効率性のために人間が性別を捨てることについても同様です。ここ数百年の人間は動物としての性質を一層自己抑制する方向へと、“文化的な自己家畜化”を促す文化や環境からの求めのままに変わり続けてきたのですから。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32


(出典 news.nicovideo.jp)

コストパフォーマンス(英語: cost performance)とは、あるものが持つコスト(費用)とパフォーマンス(効果)を対比させた度合い。コスパやCPと略されることもあるほか、費用対効果や対費用効果ともいう。 建設コンサルタントや官公庁での会議や打ち合わせでは費用便益比、もしくはB/C(ビーバイシー、benefit…
1キロバイト (116 語) - 2023年3月20日 (月) 06:46



(出典 eikara.jp)



<このニュースへのネットの反応>

年金/生活保護/健康保険を廃止して0歳以上に一人年間100万配ってみるといい。少子化が緩和されれば、その仮定はおそらく正しい。





容量を少なくすればするほど単価が上がるのは知っているだろうに、資本主義?核家族化・お1人様を望んでる時点で破滅願望の非効率化以外何物でもない。自らコスパ最悪化しておいてコスパを謳うとか笑えないよ。


移民政策にとってな!!


いかに時間やお金などのコストを楽しく無駄に使うかが贅沢の本質だから、コスパだけを追い求める人生って貧しいんじゃないかなって思うもちろん作業をコスパで考えることを否定はしないけれど、人生にまでコスパを持ち込むのはどうだろう……


「結婚をしない」ではなく、「結婚したいのにできない」が正しいんじゃないかな。30代、非正規雇用、年収300万じゃ難しいというのが現実。コスパを考えて結婚しない選択をしてる人は一握りだよ。


彼女と結婚の話し合いをするたびに、あなたが貧乏だから不安で出来ない。と言われる。


「実家住み長男は地雷だから避けろ」とか「最低年収〇〇万以上というのが未婚女性の要求」とかいう記事を出したりしてそれを助長してきたのはメディアでは?


結婚できなかった隠キャがコスパ云々言ってるだけ


見るからにアレな連中が番になって身近にいるのを見ると気が引ける。なんとか人間レベルで住み分けられないものか。


日本に限らないからどこも苦労してんだが


仕事もスポーツも音楽や芸術全般も全部デジタルでできるようになって、努力や修行みたいな根性論が意味が無くなってきたらそりゃそうなる。世界一効率重視なドイツだって残業0で休日も多いけど少子化だよ?デジタルで最短で結果を出せるんだから、肉体的にしんどいことは誰もやらないって。


結婚をする奴は*だ。結婚をしないやつはもっと*だ。(ジョージ・バーナード・ショー)


なんでもコスパコスパって、そんなこと言ってたら人離れていくぞ。だから結婚できないのかもしれないが


そりゃ共働きで核家族が基本で子育てのコストが跳ね上がってるんだから、単純に子供に使えるお金がないんだよメイドロボじゃないが子育ての負担を気軽に安全に安く代替する手段があれば一気に子育てブームになりそうそれでも学費とかまだまだ問題はあるが


コスパ云々より子育てはリスクがで*ぎる。自分の子がいじめや犯罪に巻き込まれたら?ってさ。毎日のニュースを見てたら考えずにはいられないよ。野生動物だって環境が合わなかったら子供作らないだろ


いっそのこと人生もコスパ化してみたら? 生まれてから*まで、人の一生ってコスパ悪すぎねえか?wwww


育児を狙ったあくどい金儲けが多過ぎんだよな。家や車と同じ、本来あればいい程度の物にランクを競わせてる。


共働きが標準になって、ママ友のヒエラルキーも「たくさん稼がない母親はダメ、夫に家事をやらせない母親はもっとダメ」みたいな風潮だからね。ミキティとか横澤夏子とか辻希美とか。10代前半から向上心が旺盛で、大人の価値観を学びながら成長して、体力のある若いうちに産まないと無理だわ。


老年世代向けのお仕事もしてるけど、コスパを言えば子供がいる方が圧倒的に単身・子無し世帯よりずっとお得。金銭的・物質的・精神的・肉体的・社会的・身分的に比較にならない程の有利な差がある。若く健康なうちは良いけど、老年の際の老後ケアや相続、終活など身体が動かなくなったり、収入が無くなった後のフォローを考えると、フリーターや派遣、子無しを持て囃したのが詐欺だと解る


イエとかムラとかクニとかの群れを離れて、自分の世話は自分でするのが当たり前になってきたからコスパが重視されるようになったんだろ?家畜化とは逆じゃないか?コスパコスパ言ってる奴らのどこに「より群れやすく・より協力しやすく・より人懐こくなるような性質」があるんだ?